多発性骨髄腫
高齢化と共に増加する
多発性骨髄腫
原因不明の腰痛や貧血、腎機能障害の原因として、「多発性骨髄腫」という疾患があります。高齢化の影響もあり年々患者さんは増加していますが、まだまだあまり認知されていない疾患で、見過ごされていることが多々あります。
次のグラフは、国立がんセンターより発表されている多発性骨髄腫の罹患数(りかんすう=新規患者数)・死亡数の年次推移です。特に罹患数のオレンジ色のグラフが右肩上がりなのが見て取れます。発症率は10万人あたり5-6人と言われ、年間6千人以上が新規に発症しています。
多発性骨髄腫とは?
多発性骨髄腫は、免疫細胞の一つである「形質細胞」が腫瘍化した疾患です。
形質細胞は細菌やウイルス等を攻撃する「抗体」を作っています。コロナのワクチンで一躍有名になった、あの「抗体」です。
多発性骨髄腫の患者さんでは、異常な形質細胞から腫瘍性の抗体=免疫タンパク質が大量に作られて、「IgG」、「IgA」、「IgM」などの値が非常に高くなったり、逆に腫瘍によって正常な免疫タンパク質が作れなくなってしまって「IgG」、「IgA」、「IgM」の値が低くなります。
また、免疫タンパク質の増減に応じて、「総蛋白」の値も非常に高くなったり、低くなったりします。
異常な免疫タンパク質が過剰に作られると、腎臓に目詰まりしてダメージを与えます。発見が遅れて腎臓が悪くなってしまうと透析に至ってしまいますが、早期発見・治療することで、透析移行を防ぐことが可能です。また、異常な形質細胞が骨の中で増殖することで腰痛や病的骨折を引き起こします。骨粗鬆症として治療されている方の中にも、時に骨髄腫の方がいらっしゃいます。
特に次のような症状が複数ある方は多発性骨髄腫の可能性がありますので、思い当たる場合には一度受診をおすすめします。
- 貧血や腎機能障害。その症状としてのむくみや息切れ
- 腰痛、骨折、背が縮んだ、骨粗鬆症
- 採血で総タンパク質が高い/低い
- 食欲不振、口渇、吐き気、嘔吐、認知症様症状(高カルシウムの症状)
- 全身倦怠感や体重減少
多発性骨髄腫の診断と治療
多発性骨髄腫の診断は、採血と遺伝子・染色体検査を含む骨髄検査で行います。
当院では多発性骨髄腫の診断から治療まで一気通貫で行うことが可能です。
多発性骨髄腫の治療はこの10年で非常に進歩しました。メルファラン+プレドニン(MP)療法が主流の時代には、平均余命3年と非常に予後の悪い病気でしたが、プロテアソーム阻害剤や免疫調節薬など新規薬剤の登場により、治療成績は大きく改善しています。
新薬が多く登場し選択肢が増える一方、それぞれの薬剤で副作用プロファイルが異なるため、その方の生活や基礎疾患に応じた、オーダーメイドの治療計画が必要です。例えばボルテゾミブという薬剤では末梢神経障害といって手先・足先がしびれたりするため、手先を使うお仕事の方では注意が必要です。レブラミドという薬は内服治療なので患者さんにとってメリットですが、皮膚障害や血栓症に注意が必要です。
当院では、その方の生活や背景を考慮した上で、最善の治療を行ってまいります。